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仙台高等裁判所 昭和55年(く)27号 決定

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、弁護人菅原弘毅提出の抗告申立書記載のとおりであり、要するに、本件被告事件については、第一回公判期日において被告人も弁護人も公訴事実を認め、検察官請求の書証もすべて同意取調がなされ、弁護人の情状立証が残されているのみであるから、原審が刑訴法八九条四号、五号の規定により弁護人の保釈請求を却下したのは不当であるというのである、

よって、一件記録を調査するに、被告人は昭和五五年七月七日恐喝、同未遂の被疑事実により勾留され、同月一六日と三一日の二回にわたり仙台地方裁判所に起訴されて引き続き勾留中のところ、同年九月九日第一回公判期日後に弁護人からなされた保釈請求に対し、同裁判所が同月一〇日、刑訴法八九条四号、五号に該当するものと認められるとの理由でこれを却下したことが明らかである。そこで、被告人に同法八九条四号、五号に該当する事由があるか否かを検討すると、前記第一回公判期日において被告人及び弁護人が本件公訴事実をすべて認め、被告人及び被害者四名の捜査官に対する各供述調書を含む検察官請求のすべての証拠が同意取調がなされ、弁護人の情状立証が残されているのみであることは所論が指摘するとおりである。しかしながら、弁護人請求の証拠のうち被害者四名の受領書等五通の書面は検察官の認否が未了であって、その認否次第によっては各被害者について被害弁償金の受領状況や被害感情を立証趣旨として証人調がなされる余地があり、暴力団の威力を背景にした本件各事案の態様や被告人と被害者との従前からの関係などをも考えると、被告人には未だなおそれら被害者に働きかけることにより罪証隠滅をはかるおそれが消滅したとはいえず、また、被害者にお礼参りする等畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由もあるものといわなければならない。そうすると、本件は刑訴法八九条四号、五号に該当していわゆる権利保釈が許されない場合にあたり、保釈の許否は原審裁判所の裁量に委ねられるというべきところ、本件事案の内容や被告人の家族関係、生活態度などからすると、原審が被告人の保釈を許さなかったこともその裁量を逸脱したとは認められない。

したがって、弁護人の保釈請求を却下した原決定は相当であり、本件抗告は理由がないから、刑訴法四二六条一項後段により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 三浦克己 裁判官 野口喜藏 清田賢)

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